これは陥りやすい罠です。口座に30万円が入るのを見ると、頭のどこかがそれを「自分が持っているお金」として扱ってしまいます。けれども、その金額のほとんどは実際には自由に使えません。家賃や住宅ローンはすでに行き先が決まっていますし、光熱費、保険、借入の最低返済額、その月に更新されるサブスクも同じです。それらをすべて差し引いたあとに残るものが、日々の判断で本当に意味を持つ数字です。
数字は二つではなく、三つある
これらは互いに言い換えられがちですが、同じものではありません。正確に呼び分けておくと役に立ちます。
- 額面収入——何も差し引かれる前の、見出しの金額。
- 手取り収入——税金と社会保険料が引かれたあと、実際に口座に入る金額。多くの人が「自分の給料」と言うときに指しているのはこれです。
- 可処分所得——住居費、光熱費、保険、借入の最低返済、サブスクといった確定済みの支出が出ていったあとに残るもの。三つのうち、安心して使える額を教えてくれるのはこれだけです。
厳密には、経済学で「可処分所得」は税引後の所得を指し、必需支出まで差し引いた残りは「裁量所得」と呼び分けます。日常の会話では境目が曖昧になりますが、実務上大事なのは「入ってきたお金」と「まだ行き先が決まっていないお金」の区別のほうです。
差はどこから生まれるか
収入は入ってくるもの。使えるお金は、あらゆる義務を差し引いたあとに残るものです。家賃のように大きくて分かりやすいものだけではありません。毎月あらためて判断を求めてこないからこそ忘れやすい、小さな繰り返しの支出も含みます。動画配信のセット契約、ジムの会費、クラウドストレージのプラン。どれも「支出した」という感覚が薄いのに、すべて同じ財布から出ています。
家計の不満のほとんどは、この二つの数字の差のなかにあります。人が使いすぎるのは、大きい数字にぞんざいだからではありません。小さいほうを見積もっているからで、見積もりはたいてい楽観的だからです。
差を埋める
効くのは意志の力ではなく、精度です。繰り返しの義務をすべて最新の状態で合計し、頭の中ではなく自動的に差し引くこと。それができてはじめて、残った数字は当て推量ではなくなり、買い物の計画を立てられる材料になります。